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カルロス・ゴーン逮捕に絡む税務問題

更新日:2018年12月07日

先月の11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン会長が逮捕されました。逮捕容疑は、有価証券報告書に記載すべき自身の役員報酬の額が過少であるとする金融証券取引法違反とされていますがその後の報道で、役員の報酬の過少記載以外にもいくつかの他の項目に置いて不正行為があったとされており、これらの不正行為に係る税務問題について考えて見ましょう。


●不正行為と税務問題
(1) 不正行為について
マスコミからの報道に寄ると、ゴーン容疑者には以下の不正行為があったとされています。

①有価証券報告書に記載された役員報酬が過少
日産の有価証券報告書に記載されているゴーン氏の役員報酬の額は1年当たり約10億円ですが、このほかに1年当たり10億円を退任後にコンサルタント契約や競業防止義務契約により日産がゴーン氏に支払うこととされており、この額の有価証券報告書未記載が主要論点となって逮捕へと結び付きました。

東京地検特捜部はこの退任後の10億と言うものの解釈を、上記の有価証券報告書上での役員報酬の額に当たるとのスタンスで攻めて来ており、また、付与された株価連動報酬(SAR)についても有価証券報告書に記載がないことを問題視、現在の状況へと導線として位置付けています(実際、これらの総額は120億円に達するものと推定されています)。


②自身の投資損失を日産に肩代わり
2006年ごろ、ゴーン氏の資産管理会社が通貨デリバティブ取引を行っていたが、2008年のリーマンショック発生により約17億円の損失が生じた為、この損失を日産に肩代わりさせていた。

③私的経費の流用
日産の海外子会社を通じて、ブラジル、レバノンに高級住宅を取得させて無償で使用していた。このほかにも、パリ、ニューヨーク、アムステルダム、東京で高級住宅を無償提供させていたほか、実母の家も提供させていた。更に、日産に自身の姉とアドバイザリー契約を締結させて報酬を支払っていたが勤務実態がない、家族旅行や家族の食事代、娘の大学寄附金までも日産に負担させていた。

上記不正行為に関する税務上の解釈と言うのは、現在までのところマスコミから漏れた情報である為、実際にゴーン容疑者が指示を行ったのかどうか等の事実関係は不明ですが、仮に事実であった場合、これらのポイントについて税務上の問題は以下の形になって行きます。

1)役員報酬関係
役員報酬の一部を退任後のコンサルタントフィー等として受領することとしていた点については、ゴーン容疑者と日産との間で覚書があるとされており、その覚書の記載内容により判断は異なることになりますが、税務においても、その額が確定している役員報酬(所得)と認定される可能性はあります。

この場合、ゴーン容疑者が日本の居住者であれば、その年分の所得税確定申告書に記載された所得の額が過少となり、追徴が発生する可能性があります。一方、非居住者である場合には、源泉分離課税となり、支払時までは課税できませんので、追徴課税は発生しないことになります。なお、支払時に源泉徴収、所得税の申告、消費税の申告などの問題が生じる可能性があります。

次に、株価連動報酬(SAR)ですが、税制非適格の場合には、原則として権利行使の時に給与課税、株式譲渡に譲渡益課税となり、税制適格の場合には、株式譲渡時まで課税が繰延べされます。報道によれば権利行使はしていないとのことですので、現時点で課税は生じないことになるでしょう。

2)投資損失の付け替え
これは明らかに、「役員報酬」に該当するケースです。デリバティブ投資の損失は雑所得となり、給与所得である役員報酬とは通算できませんので、多額の課税漏れが生じていることになります。ただ、10年ほど前の話であり、時効が完成していますので、税務当局は過去に課税処分を行っている場合を除き、手が出せないことになります。

④私的経費の流用
不正行為とされる私的経費については、業務関連がない、あるいは勤務実態がないといったことになると、ゴーン氏本人の役員報酬となり、追徴課税が生じる可能性があります。

総論:
(1)今後の税務当局の対応
このような大きな事件が表面化した場合には、国税当局は通常、本格的な税務調査を行います(マスコミ報道はありませんが)。本件に関しては、外国子会社を通じた利益供与があり、この部分の課税処分については難しい部分もありますが、かなり厳しい調査が行われること間違いないでしょう。

(2)税制上の問題点
私的経費の流用の内、子会社を通じて行ったものに関しては、同族会社であれば、同族会社の行為計算の否認規定により課税処分が行われると考えられますが、今回の場合は日産が同族会社に該当しないと考えられているため、同族会社の行為計算規程の適用はできません。

法人格品の法理等による課税処分は可能性としては考えられますが、仮に課税処分を行った場合には訴訟なることが確実と考えられ、国税側としても訴訟維持に苦心するのではないかと考えられます。

何にせよ、本件はゴーン容疑者に権力が集中した為、国際的なスキームによる私的流用が行われたものであり、これまでの国際課税問題とは異なる性格を有しています。国税当局としても、このような租税回避に対処するために税制改正を行う可能性があります。

例えば、国際的租税回避に関する行為計算否認規定の創設、或いは、同族会社の行為計算規程の拡充(支配株主の拡充や代表取締役による行為計算の否認)が考えられるところであり、今後の税制改正に注目していきたいところです。

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